受け継がれる甘酒づくり
―「谷口さんが守る家庭の味」
高島市マキノ町で代々受け継がれてきた甘酒づくり。谷口きよみさんのご家庭では、日々の暮らしに寄り添う発酵食として甘酒が親しまれてきました。今回、谷口さんから手づくり甘酒の仕込みを教えていただき、その技と味わいに込められた想いを伺いました。
甘酒の材料は、家庭に根づいた「三つの基本」から
谷口さんの甘酒づくりに必要なのは、水500ml、米7合、そして米麹1kgというシンプルな材料だけ。しかし、その中には長年の経験と工夫が詰まっています。
仕込みはまず、麹の塊を木製のヘラで丁寧にほぐす作業から始まります。 次に、麹菌を殺さないよう気温管理を徹底。沸騰させたお湯を70〜80℃まで冷ましてから少量ずつ加え、ゆっくり混ぜ合わせます。その後、炊きたてのご飯を少しずつ加え、全体がなめらかに馴染むよう丁寧に混ぜます。これで仕込みは完了です。

木製の道具を選ぶ理由――母から受け継いだ知恵
谷口さんが大切にしているのが、金属製の器具を使わず、木製のヘラを使うこと。
「母がずっとこの方法で作ってきたので、私も自然と同じ道具を使うようになりました。」 木のぬくもりと吸湿性は発酵の進みを柔らかくし、家庭で長く受け継がれてきた道具には、手仕事の記憶が宿っています。

発酵を整える「朝晩2回」のひと手間
仕込みのあとは、発酵を均一に進めるため、朝と晩の1日2回、木のヘラでしっかりと混ぜます。この「手をかける」ひと手間こそ、雑味のない優しい甘みをつくる秘訣。 家庭のなかで淡々と続けられてきた作業は、谷口さんにとって季節のリズムを感じる大切な時間でもあります。

やさしく、しみわたる味わい
完成した甘酒をいただくと、濃厚でありながら口当たりはやわらかく、自然な甘みが身体にすっと染み込むようでした。甘さや濃さは水の量で調整でき、自分の好みに合わせやすいのも魅力です。飲んでしばらくすると、お腹の調子が整ったように感じられ、発酵食品としての力を実感しました。 そのまま飲むだけでなく、お湯・牛乳・豆乳で割るとより飲みやすくなり、寒い冬のあたたかな一杯としても最適。さらに冷凍保存もできるため、長く楽しむことができます。

家庭で受け継がれる「発酵の記憶」
谷口さんの甘酒づくりで最も印象的だったのは、技術だけでなく「家で受け継がれてきたやり方」を大切に守っていることです。味わいはもちろん、道具や動作の一つひとつに、ご家族の歴史や積み重ねてきた知恵が息づいています。 高島市では、味噌・漬物・鮒寿司など、家庭で発酵食を仕込む文化が長く続いてきました。谷口さんの甘酒もまた、その大切な一つです。

思いに寄り添う米粉パン
谷口さんは甘酒だけでなく米粉を使ったパン作りもされています。
最初は小麦を使ったパン作りをされていたそうですが、20年ほど前に地元の米を製粉して道の駅でパンを販売する依頼を受け、それから米粉のパン作りを始められたそうです。 今では道の駅の事業からは身を引いておられるようですが、小麦アレルギーの方でも楽しめるパンの考案をされることもあるそうです。
中でも印象的だったのが、アレルギーがあり、自分だけ他の子と違う物を食べるのが嫌だった小学生に同じ形で、同じ見た目に見える米粉パンを作っていたというお話です。 給食で出るパンの形を聞き、それをその子が食べられる材料を使って作る。食材だけでなく、見た目や食べる人の気持ちまで寄り添う谷口さんの温かさを感じました。

谷口さんの甘酒づくりに触れ、「発酵食は人と人をつなぐ食べもの」であることを再認識しました。発酵の音、木べらの感触、道具に刻まれた歴史。そのすべてが甘酒の味わいに奥行きを与えています。家族が受け継ぎ、次の世代へ自然と伝えていく――その背景には、暮らしの中で大切にされてきた思いやりや、季節をともに過ごす時間があります。
高島の家庭で続く発酵文化は、地域の風土や季節の移ろいを映し出す存在であり、地域のコミュニティを支えてきた力でもあります。このあたたかな営みが、これからも多くの人の心をひらくきっかけとなればと思います。