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発酵は暮らしの中にある
―洲嵜さんが受け継ぐ「家庭の味噌づくり」

発酵は暮らしの中にある<br>―洲嵜さんが受け継ぐ「家庭の味噌づくり」


今津町で、琵琶湖を一望できる倉庫カフェを営業している洲嵜トモ子さん。カフェの運営と並行して、味噌づくりや鮒ずしづくりなど、高島ならではの発酵文化や農の魅力を伝えるイベントも開催しています。

味噌づくりのはじまり

「15年前に義父が亡くなったのをきっかけに、受け継がなあかんと思って、義母と一緒に始めたんです」

もともと味噌は、義父と義母が長く家で作り続けていた家庭の味。自然とその役目を引き継ぐようになったと洲嵜さんは語ります。

「味噌づくりに大事なのは、空間と鈍感さ」

家庭の味噌づくりは、常温で発酵させるため、空気に触れるとカビが生えることもあります。
「発酵と腐敗は紙一重。壺の外側にカビがあっても慌てずに向き合う“心の鈍感さ”が大事なんです」

また、味噌壺を置いておける土間があることも高島の発酵食文化の強み。取材の日、洲嵜家の土間には昔ながらの臼や蒸篭が並び、1~3年ものの味噌壺がずらりと並んでいました。時間が重なった味噌の色や香りは、それぞれに個性が宿っています。

大豆づくりから仕込みまで、すべて自家製

洲嵜家の味噌の特徴は、大豆の栽培から仕込みまでをすべて家で行うこと。
大豆を蒸し、臼で潰し、麹と塩を合わせ、大豆の浸し汁の“呉汁”を加えて混ぜ、唐辛子を入れて米ぬかと塩を呉汁で練った蓋で密閉。材料や工程はシンプルですが、一つひとつ手間と経験が必要です。

洲嵜さんが特に意識しているのは「仕込み時に水を使わないこと」
水分が発酵の邪魔になる場合があるため、お湯を使って整えるのが昔ながらの知恵です。

道具への愛情、受け継ぎたい想い

洲嵜家では、臼や木の桶など昔ながらの木の道具を今も現役で使い続けています。
「プラスチックは置いておくと変色したり割れたりするけれど、木の道具は手入れすればするほど良くなる気がするんです」

便利なものが溢れる時代だからこそ、手間を惜しまず道具と向き合う——。
洲嵜家の味噌づくりには、道具へ注がれた愛情と、代々の知恵がしっかり息づいています。

暮らしに根づく発酵文化

「邪魔くさいけれど、それでも続けたいんよ。やめたら終わってしまう気がして。」
洲嵜さんの言葉からは、家に受け継がれてきた味を守りたいという静かな強さが伝わってきます。
夫婦で日常生活を支え合いながら、無理のない範囲で続けていく——。
高島の発酵食文化を支えるのは、こうした「暮らしの中の協力」でもあります。
今後は味噌だけでなく、塩麹・玉ねぎ麹・柿酢など新しい発酵食にも挑戦したいと語ってくださいました。

編集後記

洲嵜さんのお話を伺い、味噌づくりが「発酵技術」以上に、暮らしや家族の歴史と深く結びついた営みであることをあらためて実感しました。土間の空気、使い込まれた木の道具、年ごとに表情を変える味噌壺——そのひとつひとつに、積み重ねてきた時間と暮らしが静かに宿っています。発酵食文化は、特別な誰かだけが守るものではなく、丁寧な日常の延長に育まれるもの。洲嵜さんの味噌づくりは、その大切さを穏やかに、しかし確かに教えてくれました。道具を大切に使い続けること、発酵をじっくり見守ること──その営みの中に、高島の豊かさと、受け継がれてきた暮らしの知恵が息づいています。

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