自然とともに育まれる発酵文化
―奥谷さんが語る「高島のお米と鮒寿司づくり」
高島市の安曇川町で家族とともに農業を営む奥谷義則さん。慣行栽培のうち、約3,000㎡で農薬不使用のコシヒカリや餌米を育てながら、地域の風土に根ざした暮らしを続けています。
そんな奥谷さんの食卓には、幼いころから「鮒寿司」が当たり前のように並んでいました。その味と香りが身体にしみつき、「自分でも作ってみたい」という思いから、3年前に鮒寿司づくりを始めたといいます。

無農薬米づくりと鮒寿司は「つながっている」
奥谷さんが最も大切にしているのが、面積は少ないですが、田んぼと真摯に向き合う農薬不使用栽培です。雑草対策など手間は増えるものの、病気や虫害に強い、生命力ある米が育つといいます。
それはそのまま、鮒寿司の味の土台に直結します。
「美味しい米じゃないと、美味しい鮒寿司にはならないんです」
米づくりから鮒寿司まで、すべてが「自然とともにある仕事」。その関係性が、奥谷さんの鮒寿司の味わいを形づくっています。
昔ながらのサイクルで仕込む鮒寿司
仕込みは毎年7月下旬。お正月に食べるための一年仕事です。
特別な温度管理は行わず、風土に身を委ねた自然発酵が奥谷流。

丁寧な下処理が味を決める
重要な工程として挙げたのが「鮒をよく洗うこと」です。鱗をていねいに取り除き、口の奥までしっかり洗い、内臓周りの細かな汚れまで丁寧に落とす。こうして細部を丁寧に磨き上げることで、やわらかな香りと上品な酸味が生まれるといいます。

仕込みのポイント
① 空気を入れず、米をしっかり詰める
② 鮒と米を交互に重ねる
③ 発酵を促すため、三日に一度は太陽に当てる
④ 冷凍保存も可能だが、風味が変わる
独学とは思えないほど工程を緻密に把握し、「偶然ではなく、観察と経験の積み重ね」だと語る表情は職人そのものです。

めでたい日のごちそうを家族のために
鮒寿司は、家族や近所の方に振る舞うためのもの。今のところ販売の予定はなく、作った鮒寿司は「美味しいと言ってもらえるのが一番の励み」
そう話す奥谷さんの表情はとても穏やかで、高島の発酵食文化が家庭に根づいてきた背景を感じさせます。

発酵を支えるのは、高島の気候と風土
奥谷さんは、高島の鮒寿司づくりに欠かせないのは「湿度と気候」だと話します。
高島しぐれと呼ばれる湿り気のある雨、時に虹を生む柔らかな空気。
この風土が、家庭ごとに個性ある発酵の風味を育てています。
かつては味噌や醤油、漬物など多くの発酵食が各家庭で手づくりされていました。
奥谷さんは、そんな伝統を守りつつ、近所同士で情報を共有し合う横のつながりの大切さを語ります。
「発酵には、人を元気にする力があると思います」
自然に寄り添い、丁寧に手をかけながら育てていく鮒寿司。その味わいは、まさに地域の文化そのものです。
奥谷さんのお話を伺いながら、高島という土地が持つ気候や風土、そして手仕事の積み重ねが、鮒寿司の味を決めていることを強く感じました。家庭の中で自然と受け継がれてきた発酵食の文化は、ただの伝統ではなく、人と自然がともに暮らしてきた証そのもの。また、発酵食文化が、高島で長く絶えることなく続いてきた背景には、地域コミュニティによる支え合いや知恵の共有があるのだと学びました。自然との共生によって生まれた発酵食文化は、これからの地域ツーリズムにとっても大きな魅力になるはずです。